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最終回 技術屋に定年退職はない

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿.1 .2 .3 | 投稿日時 2010-3-29 16:25 | 最終変更
admin  管理人   投稿数: 24
 「インドIT見聞録」も今回が最終回である。2006年4月に掲載が始まったから、ほぼ4年になる。早いものである。実は明日3月12日は筆者の3回目の成人式の日である。世間的に言うと無事、定年退職を迎えるわけで、定年とともにコラムも終わる。しかし「第2の人生」などという気持ちはわいてこない。技術屋に定年退職などはないからだ。(竹田孝治のインドIT見聞録)

 先日、東京・府中のとあるスナックに行った。驚いたことに、客はすべて70歳以上の方々ばかりである。皆さん、開店とともに「出勤」し、閉店時間まで飲み、食べ、歌う。最年長の方は84歳。さすがに少しお元気がないように見受けられる。聞いてみると、「いや、半年前に大病を患いまして、以前は毎晩来ていたのですが、最近は1週間に1回しか来られない」。心配するだけ損をしたようだ。

 府中駅前の別のスナックも同じだった。ここは歌の好きな方々が集まっている。常連客は筆者より年上のようだが現役バリバリ。隣り合わせたのは73歳で大学院の先生であった。皆さん、良い声で歌っておられる。ジャズ、ラテン、ビートルズ、ハワイアン、いきなり演歌も。歌っている姿も飲み方も、腹の立つくらいに格好の良い方が多い。筆者などはまだまだ「小僧」である。

 インドでは「タンビー」という。もちろん、タンビーだからといって負けてはいられない。禁酒中の身なので酒の飲み方では勝負しようがないが、その分、歌で対抗しよう。残念ながらインドの歌は歌えない。だから中国語の歌を「ルビなし」で歌ってきた。


■シニア技術者の活躍の場はあるか

 出だしから話が脱線してしまった。府中のスナックではなく、インドIT見聞録である。いや、言いたかったのは、日本にも元気な方が多いということだ。技術者も同じである。

 先日、シニア世代の技術者を派遣している会社を訪問した。最新技術のプログラミングでは若者にかなわないが、技術の何たるかは比べものにならないほどよく知っている。ところが、日本の現在の状況では活躍できる場がない。

 「派遣先のマネジャーより年上は駄目です」と言われるという。もったいない話である。「年上の方は使いにくい」。これだけである。本人の持っている経験と能力を生かす道は考えられないようである。度量がないということか。こんなマネジャーが開発責任者をやっているようではよい製品が生まれるわけがない。

 かなり前だが、韓国のサムスン電子やLG電子が日本の電機メーカーの技術者を大量に引き抜いたという話を聞いた。プライドの高い日本人で、しかも年上の技術者を日本より高給で引き抜いて商品を開発した。「韓国製の携帯電話の部品は日本製ばかりだ」とよく聞くが、自慢できることではない。経験のある技術者を使い、よい部品を使って商品を開発する。非常に合理的である。

 資源も人口も多い中国に追い抜かれるのは当然としても、日本と同じく資源がない、人口も少ない韓国にまで抜かれだした。電機業界などは日本のメーカーが束になってもサムスン1社にかなわないほど差がついてしまっている。インドに行くたびに韓国の底力をひしひしと感じる。「第80回 インドの家電市場で韓国メーカーが強い理由」でも書いたが、政府も民間も一丸となって生き残ろうとしている。

 国家、企業の戦略の差と言ってしまえばそれまでだが、彼らの考え方は合理的である。キム・ヨナ選手のメダルに文句をつける前に、同じ東アジアの選手の見事な演技を一緒に祝い、見習う方が先である。

 最近、韓国メーカーのオフショア開発の話を聞いた。中国で? いや、違う。インドでもない。日本である。オフショア開発先として日本が選ばれた。日本メーカーが韓国に仕事を出すのではなく、逆である。技術者を引き抜くだけでは追いつかないのだろう。何といっても、日本の品質管理は素晴らしい。欧米やインドから言わせると「過剰品質」ということになるが、これが日本の力の源泉である。

 中国も合理的である。日本のシニア技術者も中国では歓迎される。以前に中国のソフトウエア会社からスカウトされたことがある。「日本のリタイアした経験豊富な方に中国の若手技術者を教育してほしい」と言われた。その時は「リタイア」という言葉に腹が立ってしまって、「そんな歳ではないですよ」と断ってしまった。今から考えると惜しい話であった。いまどき日本企業から3回目の成人式を迎えた筆者に声がかかるわけがない。やはり「タンビー」である。

■働きやすい中国に技術者を「輸出」

 一番やりたいこと。それは日本のシニア技術者を中国でうまく活用できないかということである。日本からのオフショア開発も、やはり経験豊富な日本人技術者がフロントに立たないと無理である。日本語の仕様書を読める中国人プログラマーはいくらでもいる。しかし彼らにはまだ技術というものはわからないし、マネジャー層は絶対的に不足している。

 成長している中国国内向けの市場でも同じである。日本の経済は駄目でも、個々の技術者の力はまだまだ一流である。彼らが活躍する場が日本にないなら、輸出すればいい。少しは年金財政の破綻を防ぐ効果もあるだろう。

 日本人にとって中国は相対的には住みやすい国である。物価は安いし、食の共通性も強い。インドの住環境とは比べものにならない。日本人のイメージする中華料理は「油が多い」だが、それは日本の中華料理である。油を使わない料理などいくらでもある。筆者が大連空港に着いて真っ先に行くところはホテルではない。きのこ鍋の店である。100種類のきのこがある。鍋にはきのこ以外は入れない。肉を入れたこともあったが、肉を入れるとスープの味が台無しになってしまった。健康に気を使うシニアでも中国の食事は大丈夫。だからといって「旨い旨い」と筆者のように食べ過ぎるのはよくないが。


■若い人にインドで教育の機会を

 もう1つやりたいことがある。シニアの技術者ではなくて若者である。筆者の本業にも関係があるが、日本の若い人たちにインドで教えたい。

 最近は若い人の暗いニュースばかりが目につく。授業料を納められずに高校を卒業できない。結果的に大学に進学できず、就職活動も遅れてしまって就職先もない。こんな話をよく聞く。日本は中国より貧しく、インドに近づいてきたかと思ってしまうほどだ。

 勉強する意欲があるなら、インドで学ぶことはできないか。大学や専門学校の卒業資格は別にして、意欲さえあれば実力を身につけることはできる。昼間はインターンとして日系企業や日本と取引のある企業で働き、夜、英語とITを勉強する。航空券代と当座の生活費を誰が負担するかという問題は解決しなければならないが、不可能ではない。

 非常にハードな生活になるであろう。1年間、インドでこの生活に耐えられるかどうか。しかし日本でくすぶっているよりはいい。1年後に現地採用で日系企業に就職するというチャンスもある。企業にとっても日本人を安く使えるメリットがある。安いだけではない。見違えるような人材を獲得できる。もちろん慈善事業でやるわけではない。ビジネスとして成功させないと継続できない。言葉は悪いが、今、流行の「貧困ビジネス」である。


■技術者への日本語教育はどうあるべきか

 やりたいことの最後はインドと中国における日本語と技術者教育である。前々回のコラムでは日本人に対する日本語教育について書いた。簡単に言えば、日本人なら誰でも理解できる日本語を使おうという主張である。

 逆に、日本語を母国語としない外国人に対する日本語教育はどうか。これについては「第69回 日本を去るインドIT技術者と日本語教育の問題」と「第70回 インド人・中国人IT技術者に真に役立つ『日本語教育』とは」でも書いた。一言で言うと、同じ試験に合格したのなら同じ日本語能力を持っているはずだが、現実は全く違うということだ。

 筆者は現在の日本語能力試験では3級に合格することが大事だと考えている。3級さえ取れれば、あとは漢字と語彙の数を増やしていくだけでいい。基礎は3級合格である。

 しかし3級の上の2級合格者でも、中国では会話ができない人が多い。自称「2級相当」などと経歴書に書いている技術者もいるが、こういう人は論外である。1級合格者や大学の日本語の先生でも話が通じないケースがある。

 弊社の中国人社員は筆者の相棒のような存在であるが、日本語能力試験の資格は持っていない。本人に言わせると、「自称4級相当」である。しかし1級合格者と面接する時も彼女が通訳を行う。単純に考えて、今の試験の尺度とその試験に合格するための教育にどれだけの意味があるのか。

 インドの場合は全く逆である。技術者では3級に合格するなど夢物語である。どんなに会話が上手でも、漢字を憶えるのが難しいためだ。筆者より日本語が上手いと思えるような方でも3級である。2級の試験会場をチェンナイで見学させてもらったことがあるが、受験者は各企業の翻訳担当者ばかりであった。つまり日本語の専門家だけである。インドのIT企業における日本語教育は、簡単に言うと能力試験無視、会話の教育だけである。だから日本に来ても仕様書の読み書きができない。これでは仕事にならない。

 業種によって使う漢字と語彙は限られるはずである。ITの世界なら、極端に言うと単語は日本語でなくて英語でもいい。尊敬語、丁寧語、謙譲語の違いなどわからなくてもいい。学問としての日本語を勉強してもらう必要はない。それは研究者の仕事である。大事なのは「てにをは」である。そのうえで話すことができることである。

 こんなことを言うと、専門家の方からはお叱りを受ける。筆者の主張は、現在の尺度では「3級以下で充分」と言っているように受け取られるであろう。そのとおりである。漢字も語彙も必要に応じて憶えればいいだけである。今年から現在の検定レベルが変わると聞いているが、期待はしていない。それよりも、賛同していただける方と一緒にIT技術者のための日本語教育を立ち上げてみたい。

■オフショア開発にはコストがかかる

 最後のコラムということで、また長くなってしまった。もうしばらくお付き合い願いたい。

 オフショア開発についても一言触れないわけにはいかない。実は筆者自身はオフショア開発には懐疑的である。企業の海外進出のための1つの過程としては理解できるが、やはり業務委託ではなく子会社での開発が筋であろう。経営権を握っていない会社に委託するのはどうしても限界がある。工業製品なら部品調達という手段がある。しかしソフトウエア開発で部品化というのはなかなか難しいものである。システムの一部といっても、そのままエンドユーザーに見えてしまう。相手にシステム全体を開発できる能力がないと難しい。

 それでもオフショア開発は推進しなければならない。そうしないと日本企業は生き残れなくなってしまう。少子化の問題もある。それ以上に、例えば韓国企業がオフショア先として日本企業を探すようなとき、自社でオフショアもできないような企業は相手にされなくなる。

 最初から子会社でというわけにはいかない。問題はオフショア開発の目的である。突き詰めればどの企業もコストダウンが目的である。だからといって、発注すればコストが下がるとは限らない。人月単価が安いから、という理由だけで発注すると、多くの場合は失敗する。

 海外の企業に委託するメリットがどこにあるのか、目的は何かを経営陣と開発現場が共有できていないと、目先のコストだけを見て慌てることになる。コストを下げるためにはコストがかかる。受け入れ検査のような付随コストではない。開発手法・品質管理の共有など、最初にコストをどうかけるかが鍵になる。それを社内で共有できたかどうか。日本のソフトウエア会社で最初にインドのオフショア開発センターを立ち上げたが、結果的には閉鎖してしまった責任者としての反省の弁である。


■沖縄とバンガロール、大連の共通点とは

 しかし個人的な反省は別にして、世の中は急速に動いている。1カ月ほど前の新聞に掲載されていたが、インドのウィプロが沖縄にビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)の拠点を設けると発表した。営業拠点ではない、現場である。

 当面は日本企業の人事や経理業務の受託を行うようであるが、驚いたのは、沖縄に設けるということである。もちろん沖縄の人件費は日本国内では相対的に安く、インフラや県の優遇制度が充実しているという理由もあるだろう。しかし沖縄の最大のメリットは、その場所にある。日本地図を見ると沖縄は最も左下に位置するが、東アジアの地図を見ると中心である。東アジアのゲートウェイである。全日本空輸が国際航空貨物のハブとして那覇空港を使っているのもこのためである。

 バンガロール、大連、沖縄には共通点がある。ともに軍事拠点であるということだ。バンガロールは軍の研究所の周りに大学ができ、その学生の多さからIT企業が生まれ育った。大連にはいわゆる二百三高地と旅順港がある。軍事的にも重要拠点だが、同じ意味で日本企業の物流拠点となり、大連外国語学院が生まれ、日本向けIT企業が育った。沖縄も同じである。米軍が手放そうとしない東アジアの戦略拠点である。東アジアのIT拠点として、沖縄に勝る場所はない。ウィプロに続く企業も出てくるであろう。


■インドで起業した「後輩」に期待

 もう1点。これが最後である。筆者がサラリーマン時代に手がけたインドでのオフショアはうまくいかなかったが、うれしいことに代わりの人が出てきたようだ。当時は本社部門におられた方だが、その後ベトナムに渡り、昨年からインドでビジネスを立ち上げようとしていた山田さんという人である。2月にインドで「Sanzo Infotech India Pvt. Ltd.」を立ち上げた。社名の由来はもちろん三蔵法師で、彼のように苦難を乗り越え、インドで実績を上げることを願い、社名にしたとのことである。

 山田さんはまだ30代前半。中国とベトナムで現地採用として働いた後、「暖簾分け」をしてもらい、インドで起業した。ベトナム時代に勤務していた日系企業が開発した生産管理システムのパッケージソフトを使って、インドの日系企業に売り込みをかけている。顧客との機能のすり合わせは自分で行い、パッケージソフトのカスタマイズはベトナムで行う。日本企業の現地工場責任者が、棚卸などの細かい事柄をインドのソフト会社相手に英語で伝えていくのは大変である。かといって、部下の現地人スタッフもまだ業務全体を熟知しておらず、 システム構築を任せきるわけにはいかない。そこが狙い目である。

 「現地採用の安い給料で働きましたけど、それで終わったらダメ。現地採用で養ったコネとか低コストで開発するノウハウを生かして起業することができましたよ」

 山田さんと会ったのは昨年夏、チェンナイ随一の高級ショッピングモール「シティセンター」の中華レストランであった。シティセンターには一流ファッションブランドを始めとした高級店が並んでいるが、日系企業のチェンナイ事務所も多い。「第79回 求む若者、インド・チェンナイに『リトル東京』」で書いたイスラム系企業の建物でもある。山田さんは会社をデリーに作ったが、チェンナイに来たときはこのビルを活動拠点にしているようだ。チェンナイに行くのが楽しみである。


◇ ◇ ◇


 さて、冒頭にも書いたが、今回が最後のコラムである。最初は8回の予定、それが11回に増え、いつの間にか終了期限がなくなってしまった。ここまで来ると100回まではと考えていたが、日本経済新聞社の新しい「電子版」創設に伴い、今回が最後となった。4年間、技術屋の駄文を読んでいただき、誠にありがとうございました。

 2週間に1回、コラムの執筆が筆者の活動サイクルの1つになってしまった。せっかくだから、自分でブログを立ち上げて書き続けるかとも考えているが、どうなりますやら。その節はまたよろしくお願いいたします。



[2010年3月11日]
投票数:103 平均点:5.44
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿.1 | 投稿日時 2010-4-11 6:58
片貝孝夫 
お疲れさまでした!

また新たに始まるのですね!
ちょっと相談に乗って欲しいことがあります。
アクシスソフトで長年開発し使ってきた開発ポータルを「お仕事ポータル」という名前でSaaS化してます。
ちょっと見て評価していただきたいのです。
投票数:106 平均点:5.66
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿.1 | 投稿日時 2010-4-11 10:10
酒井淳史 
復活されるということで楽しみです!
自社サイトのコラムとなると、自由度が増えるのかなと思います。
インドでビジネスをしている中小の日系企業や逆に日本のインド企業に興味があるので、よろしければインタビューなど掲載していただければうれしいです。
投票数:88 平均点:4.66
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿.1 | 投稿日時 2010-4-11 13:55
大田朋子 
竹田さん!(ひとまず)4年間お疲れさまでした。
竹田さんの「インドIT見聞録」を読むことで
インド・中国を中心としたITマーケットの裾野を覗かせていただいていました。情報たっぷり為になりそして読みやすい。
私の周りでも大好評でした。

竹田さん!!これからも期待しています!
独自のメディアでの発信、楽しみにしていますね!
尊敬と感謝を込めて。
投票数:95 平均点:5.05
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2010-4-11 15:57
竹田 孝治 
朋子さん

ありがとうございます。
ブエノスアイレスですか? 
朋子さんはブエノスから情報発信ですね。
お互いに頑張りましょう。
投票数:94 平均点:4.79
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2010-4-11 16:01
竹田 
酒井さん

なるほど、インタビュー記事ですか。
そうですね。大手は面白くないので、中小企業ですね。
やりましょう!!
投票数:92 平均点:5.33
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2010-4-11 16:04
ゲスト 
片貝さん
はい、了解です。HPからダウンロードすればよいのでしょうか。
投票数:87 平均点:4.94

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