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第11回 インドも中国もアメリカと同じ位の「ならず者」

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2010-10-26 12:02 | 最終変更
ktakeda1  一人前 居住地: 3-11-13-111, SAKAE-CHO, FUCHU, TOKYO 183-0051  投稿数: 115
やっとコモンウェルスゲームも終わった。インドらしいといえばインドらしい。あの騒ぎは何だったのか。最後の最後にはきちんと辻褄を合わせてしまう。「インドの恥」、「大会の中止こそが最良の道かもしれない」とまで国内外から非難されていたのが嘘のようである。と、思ったら、今度は突如として「インド礼賛」の風が東方から吹き出した。コモンウェルスゲームには何の関係も無い。ベンガル湾のはるか彼方、我が国・日本からの礼賛の嵐である。


共同声明に署名・交換する両首脳ー毎日




インドのマンモハン・シン首相が日曜日夜に来日された。政界、経済界、メディア、与野党の区別も無い。急に日本は親印国家となった。曰く、
「世界最大の民主主義国家」「民主主義と法の統治を共有する同盟に近い関係」「戦略的グローバル・パートナーシップ」・・・ たしか中国とは「戦略的互恵関係」だったかな、何がどう違うのか良くわからないが。
経済界も「EPA締結は日本にとって間違いなくプラスになる」と礼賛している。明日にでも巨大市場・インドに進出できるようである。

こんな報道ばかりである。今回は決してこんな事を書くつもりではなかった。このコラムは「IT見聞録」である。久々にインドIT企業の動きについて書くつもりであった。しかしここまで気持ちの悪い報道が続くと、「ちょっと待て」との気分になってしまう。

■繰り返す日本の大騒ぎ

たしか2002年の6月だった。インド・チェンナイの日本人会ボーリング大会に参加した。終わってから打ち上げが日本料理店で開催された。日本人会の役員の方だったか総領事館の方だったか忘れたが、最後の挨拶となった。すでにお酒が入っている。酔って顔を真っ赤にされて、最後に、「皆さーん、パスポートとエアーチケットは肌身離さず持っていてくださいねぇ」との事である。印パ紛争である。日本からの報道では、その日のうちにでもパキスタンからロケット弾が飛んでくるかもしれない。CNNではデリーを脱出する米国人の映像が繰り返し映っていた。

その日の夜、日本の外務省はインド在住日本人に対して「退避勧告」を出した。筆者はちょうどその日の夜に帰国予定だったので慌てる事も無かったが、日本人社会は大変である。筆者が当時勤めていた会社も、研修生を全員帰国させる事になった。その時はチェンナイと隣のアンドラ・プラデッシュ州の州都ハイデラバードとに分かれて新入社員研修を行っていた。チェンナイ組は出国も簡単だったが、ハイデラバード組はひとまずチェンナイまで移動しなければならない。大騒ぎである。いや、自社の社員だけではない。インドに進出している日本企業全てでこの騒ぎである。

しかし後から聞いた話だ。この時期、チェンナイ郊外のリゾート地マハーバリプラムのホテルは満員になったようである。マハーバリプラムだけではない。南インドのリゾート地はどこも大賑わいである。何のことはない。CNNの報道で緊迫した表情でインドを脱出したはずの米国人達は、南インドに一時的に避難していただけのようである。騒ぎが少し収まると、すぐに仕事に復帰する。駐在員を帰国させてしまった日本企業は後も大変である。

印パ紛争の時だけではない。その前にはインドの核実験もあった。この時も多くの日本企業がインドから撤退した。「制裁」を叫ぶ米国は決して撤退などしていない。インド系米国人を残した。日本がインド市場になかなか進出できない一つの大きな理由である。
インドだけではない。中国の場合も同じだ。天安門事件で多くの日本企業が中国から撤退した。一度撤退すると、再び進出しようとしても、より多くの困難が待ち受けている。最初に進出するよりも難しい。信用を失っているからである。中国でもっとも「親日」と言われている大連の街でも、筆者は日本車を見かけた事がない。いや、多分、通っているのだろうが気がつかない。「外車」は欧米の車だけである。

どうやら今回も同じ道を歩もうとしている。これだけ日中の経済関係が強くなると簡単には撤退などは出来ない。そんな事をすれば自殺行為である。しかしそれでも新規の進出にはブレーキがかかってしまう。「チャイナリスク」なるものを考えてしまう。市場動向では無くて政治リスクで他の国に移転を考える。中国は危ないから民主主義の国:インドの方が良いとなる。政治リスクの無い国・インドなどという報道もあった。

中国でのビジネスの立ち上げを出来たのだから、民主主義国家:インドならもっと上手く行くと考えてしまう。そんな事は無い。中国での成功体験などインドでは通用しない。日本と中国とでは共通の考え方がある。もともとが儒教の国同士である。しかしインドでは通用しない。あまりにも「常識」が違う。

自分達が「反中」だから、中国とライバル関係にあるインドも「反中」のはずだ。インドも中国牽制の包囲網に加わるべきだ、となる。そのために日本も「俄かインドファン」になる。インドからすると迷惑な話だ。

■インドも中国もアメリカと同じ位「ならず者」

筆者がインドに関わりだして15年たった。自分では良くわからないが、多分、「インドファン」なのだろう。しかしインドファンの筆者でも、インドを「世界最大の民主主義国家」などと思ったことは無い。インドの可能性には惹かれる、気の合った友人も尊敬する方もいるが、「民主」、「民が主の国」であるとは思ったことは無い。多分この国では神々が主なのだろう。その意味では中国の方が「民が主」の精神を持っている。貧しくても教育を保障されているからである。インド独立以来、何かこの国が変わったか。経済政策では大きく変わった。それで現在の成長がある。変わったのはそれくらいだ。それは中国でも同じだ。

つい最近のインドの報道であるが、テレビの生中継の討論番組で出演者同士が殴りあいの喧嘩になった。生中継である。司会者もオロオロするだけで止められない。筆者もCNNの映像で見た。その様子が面白おかしく日本でも報道された。しかしこれは面白おかしく報道できるような問題ではない。インド独立の時、ハイデラバードはインドに加わらずに独立の道を選んだ。中央政府がすぐに軍隊を派遣して独立を潰した。それ以来、何十年間も多くの血が流された。その争いは現在まで続く。アンドラ・プラデッシュ州の州分割問題である。解決不能の問題として残っている。それを面白おかしく報道するメディアには「俄かインドファン」の資格も無い。ハイデラバードだけではない、アッサム等々、多くの独立問題も抱える。経済発展に比例して拡大する貧困層が基盤の毛派のテロもある。内戦状態のイラクとアフガニスタンを別にすれば、パキンスタンと並んでもっとも「テロ多発国家」と言われる所以である。核実験で世界中から非難されたのもこのインドである。コモンウェルスゲームは成功したが、汚職の摘発はこれからである。何も変わっていない。

それでも筆者はインドが好きである。コモンウェルスゲームになると、このコラムで2回続けて「頑張れインド」と書いた。いつの日かオリンピックを開催できるようなインドになって欲しいからである。ビジネスマンには良い奴が多い。インドで働く日本人も好きだ。

そのインドが今回は礼賛されている。筆者などは「これから仕事がやりやすくなるでしょう」とまで言われてしまう。そんな事は有りえない。最も文化的に近い中国と上手く行かずに、遠いインドと「戦略的グローバル・パートナーシップ」などが出来るわけが無い。何年後かにはまた再びインドから撤退を繰り返すだけである。反対に日本の信用が落ちてしまう。「反中」のためにインドを利用するのはやめて欲しい。

価値観が違う外国との付き合いである。それなりの腹のすえ方が無いと右往左往するだけである。

ニューズ・ウィークが面白い記事を書いていた。「中国はアメリカと同じ位「ならず者」」と題した記事である。大国は大国としての首尾一貫とした論理で動いている。それは米国も中国も同じである。中国を「ならず者」というのなら、それは米国も同じである。これが米国のメディア:ニューズ・ウィークの主張である。アンチ・インドのニューズ・ウィークである。そのうちに「インドも中国もアメリカと同じ位「ならず者」」と書くであろう。それらの国に対して、感情的に動こうとしても負けるだけである。

インドと中国はたしかにライバル関係にある。国境問題もあるしインド洋の覇権もある。しかしインドの最大の貿易相手国は中国である。国際政治では時として「同盟関係」にもなる。一昨年のWTOが決裂したのは、新興国「共同代表」であるインドと中国が手を組んで米国と対立したからである。今回のG20も同じである。韓国の李明博大統領が、合意に失敗すれば「(韓国政府は)帰国するためのバスや列車、飛行機を動かなくするかもしれない」とまで各国代表を脅し、何とか共同声明を出すことが出来た。しかし具体的には何も決まらなかった。「総論賛成各論勝手」である。G20が始まる前と同じドル安が続いている。先進国同士の対立だけでなく、やはりこれも欧米と新興国との利害が敵対したからである。インドからすれば、日本も欧米諸国と同じである。それなのに喧嘩した1週間後には同盟関係にまで持ち上げられるのだから不思議である。

インド政府からすればこれほどやり易い交渉は無かったであろう。どこかのメディアが来日前のシン首相のインタビューで、「シン首相、中国との関係では踏み込まず」と書いていたが、当たり前である。ここで黙っているだけで日本はインドに投資する。わざわざ中国から恨みを買う必要も無い。棚からボタ餅ならぬバター・ナンが出てきたようなものである。さぞ美味しかったことであろう。

美味しいといえば、筆者はインドの刺身も好きだが大連の海鮮料理や火鍋も好きである。楽しみを奪わないで欲しい。


チェンナイのカジキの刺身





大連のキノコの火鍋




「デリーオリンピックを見たい」との気持ちも、北京オリンピックで女子マラソンのトップ集団をタクシーで追いかけてからである。領土問題などは政治家同士で解決させて欲しい。そのために税金で雇っているのだから。それで国民同士がいがみ合う必要は何も無い。


■EPAで何に投資すべきか

さて、今回のシン首相来日の最大も目的であるEPAの話題である。EPA締結を通して日本からの投資を促進したい、これがインド政府の最大の目的である。

日本からすると国内農業への影響が少ないインドとのEPA締結である。車の部品を無税でインドに輸出して、少しでも韓国・現代自動車との価格競争で追いつきたい。車のための製鉄所も作りたい。デリー・ムンバイの大動脈構想もある。こんなところである。

しかし例えば、製鉄所をどこに作ろうと言うのか。インドは世界有数の鉄鉱石の埋蔵量を誇る。それでも鉄の有数の輸入国である。だからインドで作ってインドの車の工場に売れば良い。ここまでは簡単な論理である。しかしそんな事は日本だけでなく他の国も考えている。もっともよい例が韓国のポスコと一応はベルギー本社のアルセロール・ミタルなどが計画している大規模な製鉄所建設計画である。インド東部3州の鉄鉱石の産地に建設が計画されており、実現すれば鉄鋼生産能力を現在の3倍に出来ると言う。シン首相肝いりの計画である。しかし長年の計画であるが、どうみても実現できそうに無い。2万5千人の農民が頑強に反対しているからである。計画実現のためには、農民の立ち退きだけにとどまらず、大量の水を必要とする。周りの農民も大打撃を受ける。農業用水確保の懸念から農民の反対に遭い、立ち往生しているのが現状である。もちろん強権発動すれば可能になるかもしれない。しかし強権を発動すれば、間違い無しに反対運動の農民たちは反政府テロを繰り返している毛派に走る。だから政府も手を出せない。いくら韓国の李明博大統領がインドに行って政府と掛け合っても解決できない。これが現実である。「EPA締結は日本にとって間違いなくプラスになる」などと製鉄メーカーが言っておれる状況ではない。

今、話題のレア・アースにしても同じ事が言える。一国に依存するというのは、たしかにあまりにもリスクが高い。だからインドに何とかして欲しいのはわかる。しかしレア・アースも鉄鉱石と同じである。内モンゴルのように荒地から採取するのなら問題も無いだろうが、農地を潰すわけには行かない。

継続協議中の原子力協定はどうか。インドは特に日本から導入しなければならない理由は無い。韓国から買っても良いのである。協定を結びたいのは日本側の論理である。この問題でのインド政府の立場は、「もっと協議する必要がある」だ。

インドの最大の産業はITでも製薬でもない。繊維産業でもない。農業である。国民の70%が農村に住み、世界で1位か2位の灌漑可能耕作面積を誇るインドである。基本的に食料は自給自足の国である。これがインドの最大の武器である。

その農業を潰せばインドの優位性は無くなる。逆にさらに増産が可能になれば、すでに食糧輸入国になっている中国より強くなる。その鍵は何か、それは水である。

今回の経団連との昼食会における挨拶でもシン首相はこの点をはっきりと述べている。「日本からの投資が水の供給や廃棄物処理などのインドのインフラ整備でかなり大きな役割を果たすことを期待している」と。日本側の言う「インフラ投資への支援」とは電力、交通機関等であり、中身は随分と違う。筆者は灌漑こそインドと日本の両方の利益になると考えている。

また長くなってしまった。水の問題については次回のマイコミジャーナル「インド・中国への羅針盤」で書く事にしよう。実は今回はインドIT産業の2010年度第2Q業績について書く予定であった。SATYAMの復活、最高益も出しても株価が下がったインフォシス、ウィプロの低迷、絶好調のTCS等々である。これは次回の本コラムで。

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