第8回 インフラはどうでも良い、インドに必要なのはF1ではなくてオリンピックだ
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投稿日時 2010-9-14 4:41 | 最終変更
ktakeda1
居住地: 3-11-13-111, SAKAE-CHO, FUCHU, TOKYO 183-0051
投稿数: 115
2年前の8月、北京の街は「同一ヶ世界 同一ヶ夢想 ONE WORLD ONE DREAM」のスローガンで埋め尽くされた。ところどころに「ひとつの世界 ひとつの夢」と日本語の看板もある。北京オリンピックである。
ちょうど仕事で北京に滞在していた。17日日曜日夕方に大連に移動したが、午前中は女子マラソン、この時ばかりは仕事は無し、タクシーを乗り継ぎ乗り継ぎ、マラソンの先頭集団を追いかけていた。マラソンコースの内側、特にゴールの「鳥の巣」周辺には車はタクシーしかいない。ある意味、タクシー天国である。実は野口みずき選手の応援をしたかったのだが、残念ながら彼女は欠場、先頭集団に日本人選手を見ることも出来なかった。
トップに1分以上離された2位集団
鳥の巣
北京市内の全てのレストランは禁煙になっていた。しかし北京の人達は不満も言わずにテレビで中国選手を応援している。提携先の社員と食事に行ったが、誰も食事どころではない。カラオケクラブも同じである。チーママたちも仕事をしていない。客を放ったらかしてテレビで応援している。さすがにクラブでは禁煙ではないが、客がタバコを吸おうとしても火をつける小姐などいない。応援に忙しいのだ。閑古鳥と競技の合間は「北京歓迎迩」(ようこそ北京へ)の曲ばかりかかっている。少し旧いが、日本で言えば三波春夫さんの「東京五輪音頭」かトワ・エ・モアの「虹と雪のバラード」といったところか。
カラオケクラブでも配っていた応援の旗
大連に移動する飛行機も大変だった。乗客が全て着席し、飛び立つかなと思っていたがなかなか飛び立たない。最後に美人の乗客が1人。とたんに機内は大歓声となり、記念撮影の渦である。聞くところによると、大連出身のサッカー選手だ。なでしこジャパンに敗れて大連に帰るところのようだ。敗れても彼女は大連のスーパーヒロインである。おかげでフライトが40分も遅れてしまった。
伸びている国の高揚感、一体感に満ち満ちていた。
オリンピックだとか万博が開催されるとインフラが格段に良くなる。北京の地下鉄も変わり、タクシーも一新された。しかしインフラよりも大きいものがある。国民の一体感、マナーなど、全く違う国に変貌する。2002年に北京に行った時、地下鉄の乗客などひどいものであった。それが数年で全く違った。乗車拒否が当たり前のタクシーも変わった。ソウルもそうだ。3年前に初めてソウルに行って明洞(ミョンドン)の屋台街を歩いたが、どこにもタバコの吸殻1本も落ちていない。少し寂しい気がするくらいである。昨年11月の上海ではタクシーの乗車拒否なんか当たり前だった。タクシーに乗車できるまでに3時間かかった。それが今年の5月には全く変わっていた。
東京オリンピックの時の日本も同じだったんでしょうね。では、インドはどうか。
■コモンウェルスゲーム(英連邦競技大会)は無事に開催されるか
イギリス連邦諸国71ヶ国・地域のアスリートが集う4年に1度のスポーツの祭典「コモンウェルスゲーム」が10月3日からデリーで開幕される。インドが主な国際スポーツ大会を開催するのは1982年のアジア大会以来である。
中国が北京オリンピックを成功させ、この後、2014年にはロシアのソチで冬季五輪、さらに2016年にはブラジルのリオデジャネイロで夏季五輪と続く。BRICsの中でインドだけが取り残された形になった。インドとしては、今回のコモンウェルスゲームを成功させ、2024年の夏季五輪を誘致したい考えである。
しかしどの報道を見ても、コモンウェルスゲームのインフラ面での準備状況は惨憺たる状況のようだ。多くの競技施設が未完成、完成した施設も大雨で水漏れするなどトラブルが絶えないらしい。インドの威信をかけた一大イベントは、開催前から悲観的なムードが漂っている。
競技会場やトレーニングセンター、選手村などインフラが未完成で、多くの施設が7月末の準備委員会への引き渡し期限を守れなかった。完成した施設も屋根の崩壊や、7月からのモンスーンによる雨漏りで修繕工事中。これから劇的に改善される期待も持てないとのことである。
さらに深刻なのが大会準備にからむ汚職だ。先月には、五輪の「聖火」に相当する「クイーンズ・バトンリレー」にからむ汚職で大会準備委員会幹部3人が解任された。汚職だけではない。インフラ建設には関係者の知人の業者が次々と入り込む、その業者で出来るかどうかは関係ない。「友人だから大丈夫だ」という論理である。これは特にオリンピックだからではない。筆者も何回も言われた。インドの普段の姿である。
当初は国内世論もインドでの大会開催を歓迎した。しかしこういう現実を見せられると、高揚感どころか覚めた見方をしてしまうようである。
こういう報道が次々と目に入る。あまり具体的にここで引用したいとも思わない。なかには悪意に満ちたとしか言いようの無い報道もある。その典型がニューズウィークである。本日9月13日時点でのニューズウィーク日本語版ビジネス面のトップ記事が『「五輪」主催でバレたインドの後進ぶり』、その次のニュースが『ブラックベリーが盗聴王国インドに屈服』とくる。どちらもニューデリー支局員が書いたようだが、タイトルからして悪意に満ちている。筆者のコラムもインドには辛口が多いが、悪意のつもりは無い。NHK支局長を国外退去させるのなら、ニューズウィーク記者の方が先だと思うが、いかがなものか。
話を元に戻そう。しかしインフラが間に合わなくて何が問題なのか。競技場の雨漏りくらいはどうでも良いだろう。屋外で競技していると思えば良いだけだ。トラックに石が落ちていなければ走れるじゃないか。インドのインフラの悪さは今に始まったことではない。インドのインフラに期待している人など誰もいない。誰も北京と同じ水準など期待していないのだから。
その中で面白いニュースを見た。PTI通信だったか。ボーダフォンがコモンウェルスゲームにあわせて電動リキシャーを提供したとの事だ。排気ガスを撒き散らすオートリキシャーに対して「環境」を前面に出した。北京のように立派な地下鉄とかタクシーは無くても良い。リキシャーは庶民の足であり、インドの文化である。「これぞインドのインフラ」である。
電動リキシャー (PTI通信より)
■オリンピックはインドに似合わない、だからこそ必要だ
問題はインフラでも汚職でもない。コモンウェルスゲームで国民の一体感、高揚感が作れるか否かである。現実はどうも無理なようである、少々演出が過ぎるきらいもあったが、北京オリンピック開会式は素晴らしかった。あの開会式で多くの国民の意識をオリンピックに集中させ、高揚させた。インドにそれが出来るか。少なくとも今回のコモンウェルスゲームでは出来ないようだ。
それでは2024年にデリーでオリンピックを開催したとして、それが出来るか。インフラ面ではそのころには良くなっているだろう。雨漏りもしないだろう。しかし一体感を作れるかというと、難しいと思う。
インドも中国も多民族国家である。しかし中国では圧倒的に漢民族が多い。インドでは基本的に州によって民族が違う。北と南では人種も違う。州によって言語も全く違う。そういう難しさがある。もっと難しいのはカーストの存在である。民族が違ってもカーストさえ同じなら大きな問題は無い。しかしカーストが違うとどうなるか。たとえば個人競技は別にしても、団体競技で別々のカースト出身者のチームを作れるか。別のカースト出身のアスリートを「インド国民」として一体となって応援できるか。現実にはイメージがわかない。
中国のGDPが日本を抜いて世界2位になったと聞く。しかし1人当たりでみるとまだ1/10である。インド経済の発展は素晴らしい。しかしその中国の1人当たりのGDPと比べてもまだまだであろう。筆者はインドがさらに飛躍するためには「国民社会」の形成が必須と考えている。民族が違おうがカーストが違おうが、「ONE WORLD ONE DREAM」と言える社会が必要である。
だからこそ、インドでオリンピックをやって欲しいものだ。
■ついにFIインド開催が決定
コモンウェルスゲームは上手く行かないようだが、今度はインドでF1開催が決まった。来年10月30日、デリーで第18戦インドGPが開催される。
実はF1開催については3年前のNIKKEINETコラム「第30回 自動車産業興隆も夢物語に映るインドのF1開催」でも書いた。2年後、2009年にデリーでF1開催計画の話題である。そこでは「広大なサーキット場を2年後に完成させることなど、どう考えても夢物語である」と書いた。2年後には無理だったが、4年後には可能になったようだ。しかし本当にそれで良いのか。NIKKEINETコラムから引用してみる。
『この報道がインド国内でどのように受け止められているであろうか。さすがに若者の間ではF1ファンも増え、評判は良いようだ。バンガロールでは深夜に公道でカーレースも行われているらしい。改造車も堂々と走っている。もちろん違法であるが、金持ちの息子達には取り締まりも有名無実である。捕まっても賄賂を渡せば問題は無いと考え、走りたい放題のようである。今年は『Ta Ra Rum Pum』というカーレーサーが主人公のヒンディー映画もヒットし、カー・レーシングはちょっとしたトレンドになっている。インドに住む日本人から聞いた話だが、IT会社のエンジニアが日本に派遣される事になった。派遣前に日本についてのオリエンテーションを開いた時、彼らの最初の質問は「富士スピードウェイへの行き方」だったそうだ。』
どうやらオリンピックよりF1の方が国民の一体感を作れるようだ。
現在のインド政府の景気抑制策、税金を上げたりガソリン価格を値上げしたりしている中でもインド経済の成長は止まらない。この8月の国内乗用車販売台数は前年比33%増の16万794台を記録した。2カ月連続で月間ベースの過去最高を更新した。とにかく生産さえすれば売れる状態である。こんな状態でF1開催である。ますますインド自動車産業は発展するであろう。
もう少し3年前のコラムから引用してみる。
『筆者のメインビジネスであるIT研修を行っているチェンナイ郊外の大学の近くにフォードの大工場がある。大学とフォードの工場の前は国道45号線である。この国道を、ナンバープレートの付いていないフォード車が時速100キロで飛ばしている。どうやらこの国道はフォード車のテスト走行用の道路になっている。サーキット場を作るより先に作るものが有ると思うのは筆者だけか。
知人が面白いことを言っていた。
「F1? インドではすでに全国で行われているよ。朝から晩までバス同士のカーチェイスばかりだよ」
たしかにそうだ。路線バス同士の追い越しなど当たり前の光景である。デリーでは「ブルーラインバス」が「殺人バス」として名指しで報道されている。今年になってすでに5件の轢き殺し事件が発生しているようだ。足がまだ地についていなくても発車する、こんなのは当たり前だ。とにかく早く大量に乗せないと経営が成り立たない、運転手の給料にも響くのだ。』
殺人バスと名指しされたブルーラインバス NDTV.comより
これが3年前の現実である。現状はもっとひどいであろう。インドで1回でも車に乗ると実感する。無謀としか思えない運転である。そこにF1である。ますます無謀な運転手が増える。怖い話だ。インドにF1が必要か、否である。
■やはりF1ではなくオリンピックだ
北京オリンピックのときのNIKKEINETコラム「第55回 WTO決裂から北京五輪まで8月の中国・インドは話題満載」からである。
「インドの選手がエアーライフルで金メダルを獲得した。インドは中国に比べて経済自由化が始まるのが10年遅かったと言われている。では10年後、たとえば2020年のオリンピックを首都デリーで行えるかどうか。その頃にはインフラ面では心配ないであろう。世界有数の経済大国にもなっているであろう。その意味では可能性も十分か。しかし、学校教育でも体育などほとんど無いお国柄である。クリケットを除けばスポーツで国中が盛り上がるなんて事は想像ができない。インドが「ONE WORLD ONE DREAM」と言えるようになるのはいつの日であろうか。」
それは2024年か。デリーでオリンピックが開催されるのなら、是非、行ってみたいものだ。今度はタクシーではなくて電動リキシャーに乗ってマラソン選手と新しいインドを追いかけよう。
ちょうど仕事で北京に滞在していた。17日日曜日夕方に大連に移動したが、午前中は女子マラソン、この時ばかりは仕事は無し、タクシーを乗り継ぎ乗り継ぎ、マラソンの先頭集団を追いかけていた。マラソンコースの内側、特にゴールの「鳥の巣」周辺には車はタクシーしかいない。ある意味、タクシー天国である。実は野口みずき選手の応援をしたかったのだが、残念ながら彼女は欠場、先頭集団に日本人選手を見ることも出来なかった。
トップに1分以上離された2位集団
鳥の巣
北京市内の全てのレストランは禁煙になっていた。しかし北京の人達は不満も言わずにテレビで中国選手を応援している。提携先の社員と食事に行ったが、誰も食事どころではない。カラオケクラブも同じである。チーママたちも仕事をしていない。客を放ったらかしてテレビで応援している。さすがにクラブでは禁煙ではないが、客がタバコを吸おうとしても火をつける小姐などいない。応援に忙しいのだ。閑古鳥と競技の合間は「北京歓迎迩」(ようこそ北京へ)の曲ばかりかかっている。少し旧いが、日本で言えば三波春夫さんの「東京五輪音頭」かトワ・エ・モアの「虹と雪のバラード」といったところか。
カラオケクラブでも配っていた応援の旗
大連に移動する飛行機も大変だった。乗客が全て着席し、飛び立つかなと思っていたがなかなか飛び立たない。最後に美人の乗客が1人。とたんに機内は大歓声となり、記念撮影の渦である。聞くところによると、大連出身のサッカー選手だ。なでしこジャパンに敗れて大連に帰るところのようだ。敗れても彼女は大連のスーパーヒロインである。おかげでフライトが40分も遅れてしまった。
伸びている国の高揚感、一体感に満ち満ちていた。
オリンピックだとか万博が開催されるとインフラが格段に良くなる。北京の地下鉄も変わり、タクシーも一新された。しかしインフラよりも大きいものがある。国民の一体感、マナーなど、全く違う国に変貌する。2002年に北京に行った時、地下鉄の乗客などひどいものであった。それが数年で全く違った。乗車拒否が当たり前のタクシーも変わった。ソウルもそうだ。3年前に初めてソウルに行って明洞(ミョンドン)の屋台街を歩いたが、どこにもタバコの吸殻1本も落ちていない。少し寂しい気がするくらいである。昨年11月の上海ではタクシーの乗車拒否なんか当たり前だった。タクシーに乗車できるまでに3時間かかった。それが今年の5月には全く変わっていた。
東京オリンピックの時の日本も同じだったんでしょうね。では、インドはどうか。
■コモンウェルスゲーム(英連邦競技大会)は無事に開催されるか
イギリス連邦諸国71ヶ国・地域のアスリートが集う4年に1度のスポーツの祭典「コモンウェルスゲーム」が10月3日からデリーで開幕される。インドが主な国際スポーツ大会を開催するのは1982年のアジア大会以来である。
中国が北京オリンピックを成功させ、この後、2014年にはロシアのソチで冬季五輪、さらに2016年にはブラジルのリオデジャネイロで夏季五輪と続く。BRICsの中でインドだけが取り残された形になった。インドとしては、今回のコモンウェルスゲームを成功させ、2024年の夏季五輪を誘致したい考えである。
しかしどの報道を見ても、コモンウェルスゲームのインフラ面での準備状況は惨憺たる状況のようだ。多くの競技施設が未完成、完成した施設も大雨で水漏れするなどトラブルが絶えないらしい。インドの威信をかけた一大イベントは、開催前から悲観的なムードが漂っている。
競技会場やトレーニングセンター、選手村などインフラが未完成で、多くの施設が7月末の準備委員会への引き渡し期限を守れなかった。完成した施設も屋根の崩壊や、7月からのモンスーンによる雨漏りで修繕工事中。これから劇的に改善される期待も持てないとのことである。
さらに深刻なのが大会準備にからむ汚職だ。先月には、五輪の「聖火」に相当する「クイーンズ・バトンリレー」にからむ汚職で大会準備委員会幹部3人が解任された。汚職だけではない。インフラ建設には関係者の知人の業者が次々と入り込む、その業者で出来るかどうかは関係ない。「友人だから大丈夫だ」という論理である。これは特にオリンピックだからではない。筆者も何回も言われた。インドの普段の姿である。
当初は国内世論もインドでの大会開催を歓迎した。しかしこういう現実を見せられると、高揚感どころか覚めた見方をしてしまうようである。
こういう報道が次々と目に入る。あまり具体的にここで引用したいとも思わない。なかには悪意に満ちたとしか言いようの無い報道もある。その典型がニューズウィークである。本日9月13日時点でのニューズウィーク日本語版ビジネス面のトップ記事が『「五輪」主催でバレたインドの後進ぶり』、その次のニュースが『ブラックベリーが盗聴王国インドに屈服』とくる。どちらもニューデリー支局員が書いたようだが、タイトルからして悪意に満ちている。筆者のコラムもインドには辛口が多いが、悪意のつもりは無い。NHK支局長を国外退去させるのなら、ニューズウィーク記者の方が先だと思うが、いかがなものか。
話を元に戻そう。しかしインフラが間に合わなくて何が問題なのか。競技場の雨漏りくらいはどうでも良いだろう。屋外で競技していると思えば良いだけだ。トラックに石が落ちていなければ走れるじゃないか。インドのインフラの悪さは今に始まったことではない。インドのインフラに期待している人など誰もいない。誰も北京と同じ水準など期待していないのだから。
その中で面白いニュースを見た。PTI通信だったか。ボーダフォンがコモンウェルスゲームにあわせて電動リキシャーを提供したとの事だ。排気ガスを撒き散らすオートリキシャーに対して「環境」を前面に出した。北京のように立派な地下鉄とかタクシーは無くても良い。リキシャーは庶民の足であり、インドの文化である。「これぞインドのインフラ」である。
電動リキシャー (PTI通信より)
■オリンピックはインドに似合わない、だからこそ必要だ
問題はインフラでも汚職でもない。コモンウェルスゲームで国民の一体感、高揚感が作れるか否かである。現実はどうも無理なようである、少々演出が過ぎるきらいもあったが、北京オリンピック開会式は素晴らしかった。あの開会式で多くの国民の意識をオリンピックに集中させ、高揚させた。インドにそれが出来るか。少なくとも今回のコモンウェルスゲームでは出来ないようだ。
それでは2024年にデリーでオリンピックを開催したとして、それが出来るか。インフラ面ではそのころには良くなっているだろう。雨漏りもしないだろう。しかし一体感を作れるかというと、難しいと思う。
インドも中国も多民族国家である。しかし中国では圧倒的に漢民族が多い。インドでは基本的に州によって民族が違う。北と南では人種も違う。州によって言語も全く違う。そういう難しさがある。もっと難しいのはカーストの存在である。民族が違ってもカーストさえ同じなら大きな問題は無い。しかしカーストが違うとどうなるか。たとえば個人競技は別にしても、団体競技で別々のカースト出身者のチームを作れるか。別のカースト出身のアスリートを「インド国民」として一体となって応援できるか。現実にはイメージがわかない。
中国のGDPが日本を抜いて世界2位になったと聞く。しかし1人当たりでみるとまだ1/10である。インド経済の発展は素晴らしい。しかしその中国の1人当たりのGDPと比べてもまだまだであろう。筆者はインドがさらに飛躍するためには「国民社会」の形成が必須と考えている。民族が違おうがカーストが違おうが、「ONE WORLD ONE DREAM」と言える社会が必要である。
だからこそ、インドでオリンピックをやって欲しいものだ。
■ついにFIインド開催が決定
コモンウェルスゲームは上手く行かないようだが、今度はインドでF1開催が決まった。来年10月30日、デリーで第18戦インドGPが開催される。
実はF1開催については3年前のNIKKEINETコラム「第30回 自動車産業興隆も夢物語に映るインドのF1開催」でも書いた。2年後、2009年にデリーでF1開催計画の話題である。そこでは「広大なサーキット場を2年後に完成させることなど、どう考えても夢物語である」と書いた。2年後には無理だったが、4年後には可能になったようだ。しかし本当にそれで良いのか。NIKKEINETコラムから引用してみる。
『この報道がインド国内でどのように受け止められているであろうか。さすがに若者の間ではF1ファンも増え、評判は良いようだ。バンガロールでは深夜に公道でカーレースも行われているらしい。改造車も堂々と走っている。もちろん違法であるが、金持ちの息子達には取り締まりも有名無実である。捕まっても賄賂を渡せば問題は無いと考え、走りたい放題のようである。今年は『Ta Ra Rum Pum』というカーレーサーが主人公のヒンディー映画もヒットし、カー・レーシングはちょっとしたトレンドになっている。インドに住む日本人から聞いた話だが、IT会社のエンジニアが日本に派遣される事になった。派遣前に日本についてのオリエンテーションを開いた時、彼らの最初の質問は「富士スピードウェイへの行き方」だったそうだ。』
どうやらオリンピックよりF1の方が国民の一体感を作れるようだ。
現在のインド政府の景気抑制策、税金を上げたりガソリン価格を値上げしたりしている中でもインド経済の成長は止まらない。この8月の国内乗用車販売台数は前年比33%増の16万794台を記録した。2カ月連続で月間ベースの過去最高を更新した。とにかく生産さえすれば売れる状態である。こんな状態でF1開催である。ますますインド自動車産業は発展するであろう。
もう少し3年前のコラムから引用してみる。
『筆者のメインビジネスであるIT研修を行っているチェンナイ郊外の大学の近くにフォードの大工場がある。大学とフォードの工場の前は国道45号線である。この国道を、ナンバープレートの付いていないフォード車が時速100キロで飛ばしている。どうやらこの国道はフォード車のテスト走行用の道路になっている。サーキット場を作るより先に作るものが有ると思うのは筆者だけか。
知人が面白いことを言っていた。
「F1? インドではすでに全国で行われているよ。朝から晩までバス同士のカーチェイスばかりだよ」
たしかにそうだ。路線バス同士の追い越しなど当たり前の光景である。デリーでは「ブルーラインバス」が「殺人バス」として名指しで報道されている。今年になってすでに5件の轢き殺し事件が発生しているようだ。足がまだ地についていなくても発車する、こんなのは当たり前だ。とにかく早く大量に乗せないと経営が成り立たない、運転手の給料にも響くのだ。』
殺人バスと名指しされたブルーラインバス NDTV.comより
これが3年前の現実である。現状はもっとひどいであろう。インドで1回でも車に乗ると実感する。無謀としか思えない運転である。そこにF1である。ますます無謀な運転手が増える。怖い話だ。インドにF1が必要か、否である。
■やはりF1ではなくオリンピックだ
北京オリンピックのときのNIKKEINETコラム「第55回 WTO決裂から北京五輪まで8月の中国・インドは話題満載」からである。
「インドの選手がエアーライフルで金メダルを獲得した。インドは中国に比べて経済自由化が始まるのが10年遅かったと言われている。では10年後、たとえば2020年のオリンピックを首都デリーで行えるかどうか。その頃にはインフラ面では心配ないであろう。世界有数の経済大国にもなっているであろう。その意味では可能性も十分か。しかし、学校教育でも体育などほとんど無いお国柄である。クリケットを除けばスポーツで国中が盛り上がるなんて事は想像ができない。インドが「ONE WORLD ONE DREAM」と言えるようになるのはいつの日であろうか。」
それは2024年か。デリーでオリンピックが開催されるのなら、是非、行ってみたいものだ。今度はタクシーではなくて電動リキシャーに乗ってマラソン選手と新しいインドを追いかけよう。
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